聴覚機構に対する挑発?
2010-08-29


ある実験のために、Charles Ives (1874〜1954)は、コネティカット州ダンベリーの中央広場にある塔に登りました。
 事前に打ち合わせした通り、近在の村々からバンドがひとつずつ、互い独自のメロディ、リズムを奏で、行進しながら集まってきました。Charles Ives親子はその中心、すべてを聞き取れる最高の位置にいて、様々なマーチ、いろいろな響きが耳の周りを飛び交い、その音の交差に酔いしれたそうです。

 耳よりの話ですが、人間の耳は元々音を聞くために作られたわけではありません。
 平衡器官であった両耳は、ライアル・ワトソン博士の著作によれば、「半ば思いつきのように」鳥類や哺乳類の段階になって、外界の多様な音に反応する能力が付け加えられました。この思いつきの成果は、しかしなかなか優秀です。混み合う駅の待合室、多くの話し声と騒音のなかでも、ひとつの声に意識を集中して、盗み聞きしているそぶりを見せずにその内容を聞き取る芸当まで、我々は身に付けてしまいました。
 脳がそうした作業に関与していているのは疑いもないですが、異なる振動数への耳の反応や、紛らわしい雑音の中からひとつのメロディ、リズムを掻き分ける理論は、いまでも明確になっていないらしいです。

 多くの楽器が鳴り響くような状況、そして冒頭の実験の成果を、Charles Ivesがもっとも反映した作品の1つに、「ニューイングランドの3つの場所(Three Places in New England )」の第2楽章「Putnam's Camp」が挙げられます。
 出だしから変です。時々リズムがずれて、馴染みのあるメロディを追っていく脳を含めた聴覚機構は、肩すかしを何度も食わされます。そして終盤には激しい音の交差、僕などは聞いていて笑い出してしまうぐらいです。
 この挑発はなかなか楽しいです。


[音楽]

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