最近読んだ「中国文学の愉しき世界」(井波律子、岩波書店)に、白行簡の手になる「三夢記」を取り上げた文章も、含まれています。
不思議な夢を三パターン、それぞれ例を挙げて記しただけの短文(
[URL])ですが、おもしろいです。
適当に分けてしまえば、
パターン第一種は、ほかの人の夢のなかに、正気(のはず)の自分が入り込んだ、入り込んでしまった、というタイプです。
パターン第二種は、知らないはずの事実を、他人の行動を、夢のなかで見て知ったパターンです。
そしてパターン第三種は、複数の人が同じ夢を見て、夢のなかに出会ったパターンです。
しかし、一見まったく違うシチュエーションの三パターンも、その違いはかなり微妙なものだったりします。
今昔物語も最近ぱらぱらと読んでいますので、例として挙げておきます。
巻三十一の第十では、愛人宅で寝泊まりした勾経方の夢に、正妻が意図的に現れて大騒ぎを起こしたので、第一種のパターンだと言えましょう。
巻十三の第十一「一叡持経者、聞屍骸読誦音語」では、見かけた屍骸のもとで礼拝した一叡の夢に、すでに白骨と化した東塔の住僧・円善が現れました。円善から見れば第一種の変形だと言ってもいいですが、一叡の立場で言えば第二種のパターンに該当するかも知れません。
巻第三十一、常澄の安永という者が長旅を終え、家に戻る前夜、宿の隣室で妻がほかの若い男と逢い引きするのを見て、我慢ならんやと踏み込んでみたら、部屋は真っ暗になり、はっと夢から目が醒めました。家に帰って妻に会うなり、昨夜に変な夢を見たよと妻が言い出しました。知らない男に連れ出され、一緒にご飯を食べて寝てしまったところを、いきなりあなたが飛び出したのでびっくりしたわ、と。
安永と妻が同じ夢を見たので、パターン第三種になるのでしょう。
しかし、もし「はっと目が醒めました」のでなければ、妻の夢に踏み込んだだけのパターン第一種になるし、逆に妻が嘘をついて本当に裏切ったなら、それを知った安永の夢はパターン第二種になるかも知れません。
セコメントをする