翻訳は難しいです。
正しい訳を付けるには、語学的な知識はもちろん、書かれている事柄に関連する限り、両国、地域での風俗習慣、歴史文化、信仰宗教まで知る必要な場合があります。
プロの翻訳者として生活するために、自分の知っている分野の仕事だけ取るのは、なかなか簡単なことではないでしょう。しかし、良心のある翻訳者は、時には勉強する決心を下り、時には仕事を断る勇気も必要だと思います。
素人が言うのもなんなんですが、誤訳が多いと、読者に迷惑をかけるばかりでなく、自らの信頼とキャリアを損なってしまう可能性もあります。
例えば、ゲームの「Age of EmpireII」を紹介したとき、アスキーから出している「The Conquerors Expansion」の攻略本が写真に写っていますが(
[URL])、これはかなりひどい翻訳でした。
アステカの固有テクノロジー「栄誉戦」についての紹介では、
「既に瀕死のジャガーウォーリアにかなり大きな力が与えられる栄誉戦では、槍兵(およびそのアップグレード兵)でさえ恐怖に陥れることも可能です。」とあります。
なんのことか全然わかりません。
「栄誉戦」を研究すれば、元々脅威的なジャガーウォーリアにかなり大きな力を与えるだけでなく、槍兵(およびそのアップグレード兵)をもかなり恐怖な存在にすることが可能です。」にでもすれば、まあ、このゲームをやっている人なら意味はわかります。
各文明の戦略紹介で、朝鮮について、
「騎兵育成所のユニットはほとんどすべて利用できますが、血統の研究の無意味さが時に大きな問題となることがもあります。」とあります。
原文は読んでいないですが、きっと、朝鮮の文明では「血統」のテクノジーを研究できないことについて言及しているところです。「無意味さ」とはひどい訳でした。
例を挙げるのもばかばかしいぐらい、この本には至る所に意味不明な文が混ざっています。
きっと、翻訳者(株式会社日本ドキュメンテックスとなっていますが)は、このゲームをほとんど(もしくはまったく)やったことがないでしょう。
佐藤正人さんの「蹄の音に誘われて」(毎日新聞社)を読むと、江戸川乱歩の「競馬を描いた探偵小説」について、いくつかの点を指摘しています。
例えば、「近頃は競馬のハンデをとんとしないものだから、新聞に目を通して予備知識をつけておかなくちゃ」という主人公の素人探偵の言葉ですが、なんだかよくわかりません。
実は「ハンデキャップ」は普通の意味以外、勝ち馬を検討する、という意味もあり、この競馬用語を知らないと文章が通じなくなってしまう、との話です。
江戸川乱歩は、語学は相当達者で、英米の探偵小説を原文で読み、さかんに紹介していましたが、それでも競馬に詳しくないため、誤訳が発生してしまいます。
佐藤さんは競馬の専門家なので、「競馬用語」だと言っていますが、競馬に限らず「勝者を予想する」まで広げられる例を、僕は米国のスポーツやギャンブルのサイトで何度か見かけたことがあります。
翻訳の場合、自国の競馬に詳しいだけでもだめです。
アメリカ最大の競馬週刊誌「The Blood Horse」を定期購読していた頃だから、たぶん8年前か9年前の話です。
うろ覚えですが、「日本はいま、海外から大量に3歳(3 years old)馬を輸入している。2歳(2 years old)馬も輸入していますが、それよりも3歳馬の輸入数が多くなっています」、というような記事が出ていました。
競走馬の3歳(3 years old)というと、すでにクラシックロードで戦っているか、古馬の域に入ろうとしているかですので、若い2歳(2 years old)よりもたくさん輸入していたなんて、考えられません。
もちろんそんなわけはなく、誤訳です。
2001年から、日本でも馬齢の数え方を欧米に合わせましたが、その頃はまだ「数え年」を使っていました。
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