鮮魚商の売り口上
2014-10-19


「20世紀の遺跡」(現代風俗研究会編、河出書房新社)を読んでいますが、西村幹夫さんや三坂政美さんが採取した、戦後の鮮魚商の売り口上が収録されています。
 ほんの一部をメモしてきましたが、なかなかおもしろいです。


 「店は小店で小さいければ タイやヒラメの舞い踊りじゃいな」

 竜宮城ではありません。

 「抜けば玉散る氷の刃 五郎正宗の太刀じゃいな」

 きれいで活きが良いのはわかりますが、五郎正宗作の名刀ほどの切れなのか、ここの太刀魚は。

 「磯のアワビを九つよせて これが苦界の片想いじゃいな」

 アワビは貝殻が片側しかつかないので、九貝(苦界)の片面(片想い)だけが並ぶことになりますな。

 「カレイや彼ヶ 私の彼は 色は白くて器量良しじゃいな」

 左ヒラメの右カレイだと言うければ、私の私のカレイは〜左利き、なんちゃって。

 「タコに骨なしナマコに目なし わしの懐にゃ金がないわいな」

 鶴見俊輔(「太夫才蔵伝 漫才をつらぬくもの」、平凡社)によると、ミヤコ蝶々は初舞台でこんな安來節を歌ったそうです:「♪タコにホネなし ナマコに目なし わたしゃ子供で色気なし」)

 「日暮のカラスは森を見てとまる 森は森でも鈴鹿森だっせな」

 日暮のカラスとは夕方の値切りセールを狙うお客さんを指しており、その目に留まった盛り(森)の魚は、鈴鹿森産だったようです。鈴鹿森は魚つき保安林です。

 「やけのやんぱち日焼けの茄子 せんちの火事でやけくそだっせな」

 叩き売りが始まりました。せんちは「雪隠」の転で、つまり便所です。火事になっても焼けたのは知れたものです。

 「伊勢は津でもつ津は伊勢でもつ うちの所帯はカカでもつわいな」

 伊勢音頭の「伊勢は津でもつ津は伊勢でもつ、尾張名古屋は城で持つ」の替え歌。魚はどこへ行ったのやら。

 「一口食べたら忘れられましょか かあちゃん質に入れマグロの刺身」

 その所帯とやらは、どうなってしまうのでしょうか?

 「須磨や明石や舞子の浜で 漁れたイワシじゃテテ噛むイワシじゃ」

 なるほど、イワシは元気が良くて人の手を噛むわけですね。この時代、売る人もみんな元気が良くて、威勢の良い歌は、噛まなかったのでしょう。


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